ニコンのFマウント一眼レフカメラ向けに設計されたAF-S NIKKOR 85mm f/1.8Gは、その優れた光学性能と明るい開放F値により、長年にわたり多くの写真家から高い評価を得てきた定番の単焦点レンズです。特にポートレート撮影において絶大な人気を誇り、その美しいボケ味と低照度下での優れた描写力は、このレンズの最大の魅力と言えるでしょう。本レビューでは、このレンズの主要な特徴、性能、そして最適な使用シナリオについて、客観的な視点から詳細に掘り下げていきます。フルサイズ(FXフォーマット)対応のこのレンズは、DSLRユーザーにとって非常に魅力的な選択肢の一つです。
このレンズは、焦点距離85mmの単焦点レンズであり、開放F値1.8という非常に明るい絞り値を誇ります。これにより、非常に浅い被写界深度と美しいボケ味を実現し、被写体を背景から際立たせる効果を最大限に引き出すことができます。最小絞り値はf/16で、光量が多い環境下での細やかな露出調整も可能です。
光学設計は9群9枚のレンズ構成を採用しており、各レンズにはニコン独自のスーパーインテグレートコーティング(SIC)が施されています。このコーティングは、フレアやゴーストの発生を効果的に抑制し、厳しい逆光条件下でもクリアでコントラストの高い画像を生成するのに貢献しています。絞り羽根は7枚の円形絞りを採用しており、点光源のボケが自然で美しい円形になるよう配慮されています。
オートフォーカスシステムには、ニコン独自の超音波モーター(SWM)が搭載されており、静かで高速、かつ正確なピント合わせを可能にしています。これにより、決定的な瞬間を逃すことなく撮影に集中できるでしょう。また、レンズの全長が変わらないインターナルフォーカシング(IF)方式を採用しているため、フォーカス時の重心変動が少なく、バランスの取れた操作性を実現し、フィルター装着時にも前玉が回転しないため、特に偏光フィルターなどの使用に便利です。
物理的な特徴として、その軽量性が挙げられます。重量はわずか350gと非常にコンパクトで、気軽に持ち運び、長時間の撮影でも負担になりにくい設計です。フィルター径は67mmで、多くのニコンレンズと共通性があり、フィルター資産を有効活用できます。最短撮影距離は0.8mで、最大撮影倍率は0.12倍と、日常的な撮影において十分な性能を備えています。手ブレ補正機構は搭載されていませんが、f/1.8という明るさにより、比較的速いシャッタースピードを確保しやすいため、多くのシーンで手持ち撮影が可能となります。
AF-S NIKKOR 85mm f/1.8Gは、その価格帯を考慮すると驚くほど優れた光学性能を発揮します。開放F値1.8から非常にシャープな描写力を示し、特にポートレートにおける瞳の描写など、細部の解像力は目を見張るものがあります。一段か二段絞ることで、画面全体にわたるシャープネスはさらに向上し、風景やスナップ撮影においても高い満足度が得られます。
このレンズの最大のセールスポイントの一つは、間違いなくその美しいボケ味です。f/1.8の明るい開放絞りと7枚の円形絞りの組み合わせにより、背景は非常に滑らかでクリーミーに溶け込み、被写体を立体的に浮かび上がらせます。点光源のボケも自然で美しく、ポートレートだけでなく、雰囲気のある夜景スナップなどでもその効果を実感できるでしょう。色収差は、光学設計とSICコーティングの恩恵により、比較的良好に抑制されています。高コントラストな被写体や逆光条件下でも、パープルフリンジなどの色にじみは目立ちにくく、クリアな発色を保ちます。周辺光量落ち(ビネット)は開放付近で若干見られますが、これは大口径レンズの一般的な特性であり、多くの場合、画像編集ソフトウェアで容易に補正可能です。歪曲収差はほとんどなく、直線が正確に描写されます。
このレンズが特に優れた性能を発揮する使用シナリオは多岐にわたります。
- ポートレート撮影: 焦点距離85mmは、ポートレートにおいて古典的かつ理想的な選択肢とされています。被写体との間に適度な距離を保ちつつ、顔のパーツや身体のプロポーションを自然に描写し、またf/1.8の開放F値と美しいボケ味は、被写体を背景から美しく分離させ、印象的な一枚を生み出します。
- 低照度下での撮影: f/1.8の明るさは、薄暗い室内や夜間など、光量が限られた環境での撮影において非常に強力な武器となります。ISO感度を過度に上げることなく、ノイズを抑えたクリアな画像を撮影できるため、手持ち撮影の幅が広がります。
- イベント撮影: 結婚式や発表会、コンサートなどのイベントでは、被写体との距離がある場合や、動きの速い被写体を追いかける場面が頻繁にあります。85mmの焦点距離は、ステージ上の人物や会場の雰囲気を切り取るのに適しており、高速かつ静粛なSWMによるAFは、決定的な瞬間を逃しません。明るい開放F値は、照明が不安定な会場でも高いパフォーマンスを発揮します。
- ストリートフォトグラフィー: 85mmという焦点距離は、広角レンズとは異なるアプローチでストリートスナップを楽しむことができます。被写体との間に適度な距離を保ちつつ、被写体を背景から切り離し、物語性のある写真を撮影するのに適しています。軽量コンパクトな設計は、長時間持ち歩くストリート撮影においても負担になりません。
このレンズのメリットとデメリットを公平に見てみましょう。
メリット:
- 優れた光学性能: 開放からシャープで、美しいボケ味はポートレートに最適です。
- 明るい開放F値: 低照度下での撮影に強く、被写界深度のコントロールが容易です。
- 高速かつ静粛なAF: SWMとIFにより、快適な撮影体験を提供します。
- 軽量・コンパクト: 持ち運びが容易で、DSLRシステムに負担をかけません。
- コストパフォーマンス: Fマウント85mmレンズの中で、性能と価格のバランスが非常に優れています。
デメリット:
- 手ブレ補正機構なし: 低速シャッター時や動画撮影時には、手ブレに注意が必要です。特に高画素機では手ブレの影響が顕著になる可能性があります。
- 焦点距離の限定: 85mmは汎用性が高い一方で、より広範囲を写したい場合や、極めて遠距離の被写体を捉える場合には、他のレンズが必要になります。
- 最短撮影距離: 0.8mは日常使いには十分ですが、よりクローズアップしたマクロ的な撮影には不向きです。
AF-S NIKKOR 85mm f/1.8Gは、ニコンFマウント一眼レフカメラユーザーにとって、特にポートレート撮影を主眼に置く方、あるいは明るい単焦点レンズの描写力を手軽に体験したい方にとって、極めて魅力的な選択肢です。その優れた光学性能、美しいボケ味、そして高速なオートフォーカスは、プロの現場からアマチュアの趣味の撮影まで、幅広いシーンでその真価を発揮します。手ブレ補正機構がないという点や、特定の用途における焦点距離の制約はありますが、それを補って余りあるほどの描写力と使いやすさを備えています。このレンズは、あなたの写真表現の幅を広げ、感動的な一枚を生み出すための強力なツールとなるでしょう。
